☆今回は法律問題!
ちょっと複雑だけど、最後まで読んでね!


■『海上警備行動』は警察活動なんです
<自衛隊法第82条>
防衛大臣は、海上における人命若しくは財産の保護又は治安の維持のため特別の必要がある場合には、内閣総理大臣の承認を得て、自衛隊の部隊に海上において必要な行動をとることを命ずることができる。


 誤解が多いのですが『海上警備行動』は軍事作戦(『防衛出動』)とは違います。海上の治安を守る警察活動です(海上保安庁の対処能力を超える事案と判断された場合に発令されます)。そのため『警察権』が問題になるのです。

 警察権は二種類あります。

・行政警察権:任意の“確認”のみできる。
・司法警察権:強制力のある捜索、逮捕、逃亡防止の為の武器使用ができる。


 例をあげると――街角の“職務質問”(これは任意ですね)は『行政警察権』に基づく『行政警察業務』です。ここで犯罪が発覚し“逮捕”(強制力がありますね)されるのは『司法警察権』に基づく『司法警察業務』となります。

 『司法警察権』は『司法警察職員』たる警察官・海上保安官・麻薬取締官などが持っています。一方、自衛官には『警察権』はありませんが、今回のように『海上警備行動』中の部隊に一時的に“付与”される例はあります。

 おわかりでしょうか? つまり海賊を取締る『司法警察業務』を行うには海上保安官の存在が必要なのです。…海自だけではどうしようもなんですよね。

 さて、ここで疑問を抱かれた方もいるのではないでしょうか?
 「ソマリア沖の諸外国軍は『警察権』を持っているの?」
 『警察権』については軍隊に認めている国もあれば、無い国もあるので回答は難しいのですが、一つ言えることは諸外国には“海賊を取締る法律”があり、日本にはそれが無いということです。


■海賊を取締る法律が無い!
 国際海洋法条約では海賊を定義し、海賊が犯罪行為であり、海軍(など国家から権限を認められた組織)が公海上において海賊船の拿捕を行うことができる――と確認されています。各国はこの条約をもとに国内法を整備し、それを根拠法規として軍の行動規範(交戦規定など)をつくり海賊に対処しているのです。

 一方の日本には“海賊を取締る法律”が存在しません(条約の批准国なのに…)。法律上、日本には“海賊”という犯罪行為は存在しないのです。

 そこで今回の派遣にあたっては既存の法律(刑法など)を適用し、海賊を「強盗」や「殺人」などの罪に問うことにしました。その結果が、海上での警察活動である『海上警備行動』であり、『警察権』の問題が生じる原因なのです。

 しかし元々が遠くアフリカ沖で、重武装した海賊を相手にすることを考えて作ったわけではないので、いろいろ問題があるんです…。


▼各国の海賊取締り法規について訂正▼
 解説で「各国はこの(海洋法)条約をもとに国内法を整備し~」と説明させていただきましたが、この点が間違いであるというご指摘をうけました。

 もともと“海賊”問題の歴史的背景のあるヨーロッパ諸国などでは、海賊の取締りに関する法律や慣習が存在する国が多いということです。
 近代になり、各国が海賊問題への共通認識を設けるべく、これら国際慣習をまとめて『国際海洋法条約』(および『公海条約』)がつくられた――というのが正しいようです。

 ご指摘ありがとうございました!

※各国の取締り法規の実情・詳細については法学の専門的解説になってしまうのでここでは割愛させていただきます。


◆問題1:武器を使えない!
 警察活動ですので、武器の使用は『警察官職務執行法』(第7条を準用)に基づいて判断されます。
 条文は長いので省略しますが、ざっくり言うと“正当防衛&緊急避難でもなければ相手に危害を加えてはいけない”という法律です。

 公権力が国民の人権を侵害しないように、警察官職務執行法では一方的な武器の使用は認めていないのですね。
 国内ならこれで良いのですが、今回の相手は機関銃やロケット砲で武装しているような人たちなので…。


◆問題2:外国の船を助けられない!
 今回、海賊を取締る根拠となる『刑法』には適用範囲が定められています。
 『刑法』は日本国内の治安を守るための法律であり、適用範囲は自国領域内に限定されるのです(法の属地主義/属人主義)。つまり、守れる船(法が適用できる船)が限られるということです。

 それが「保護対象」(日本籍船、外国籍船に乗船する日本人乗組員・乗客、わが国の事業者が運行する日本関係船舶、日本の貨物を積んだ外国船舶)というわけです。

 反対に言えば、保護対象に該当しない外国船が攻撃を受けても自衛隊(&海上保安庁)には助ける法的根拠が無いのです!


 もし、正当防衛を超える武器の使用をおこなった場合、もしくは外国船を守るために武器を使用した場合、たとえそれが状況判断として正しくても、自衛官が法に背いた“犯罪者”と見なされる可能性があるのです。


■次回は2月27日 金曜日更新予定です。
 さて、なぜ『海賊対処は一義的に海保庁』なのか、そしてなぜ『海上保安庁派遣論』が出てくるのか、今回のお話でご理解いただけたと思います。
 たしかに海上保安庁は東南アジア諸国とも連携してマラッカ海峡の海賊対処などを行った実績もあるので、今回の海上自衛隊派遣に疑問を感じる人も多いかもしれませんね。

 でも、それではなぜ海上自衛隊を派遣しなければいけないのでしょうか? 次回から2回にわたって海上自衛隊と海上保安庁の能力を比較し、海上自衛隊派遣の現実的理由についてご説明いたします。
 あ、法律問題は今回は終わりですから、安心してください!



★おまけ:「現行犯逮捕で取り締まり」の誤解
 日本の法律で「現行犯逮捕」が司法警察権の無い一般人でもできることを知っている人は多いと思います。今回、一部に「自衛隊だけでも海賊の現行犯なら逮捕できるのでは?」という声がありますが、できないんです。自衛隊の法解釈では、現行犯逮捕できるのは「私人」であるとされています。任務中の自衛官は「公人」となるため、逮捕できないのです。
 …ちょっとわかりにくいので例を挙げましょう。

 自衛官が歩いていたら、目の前で泥棒が!
 a)自衛官はプライベートで道を歩いてただけ
    →「私人」であり現行犯逮捕OK
 b)書類の移送など職務中だった
    →「公人」であり現行犯逮捕権限ナシ

 おわかりいただけましたか?


<注意>
法律問題については、なるべく平易な文章を心がけました。そのため厳密な解釈・言い回しと異なる表現もあります。ご了承ください。

法規監修:紅羽あうと