前回、「海上保安庁派遣論」の根拠となっている法律問題についてご説明いたしました。

 法的にみれば「海上保安庁派遣論」は筋が通っているように見えます。しかしコミックでも説明しているとおり部隊運用上、いくつかの問題点があるのです。コミックを補足するかたちでご説明したいと思います。


◆問題1:沿岸警備で手一杯!
 海上保安庁は日々、日本沿岸の治安維持のため活躍しています。言ってみれば、毎日が実戦! ソマリアに船を出す余裕はあまり無いのです…。

 海保庁は大小500隻以上の巡視船艇を保有していますが、すべての船が派遣に適しているわけではありません。

・長期の外洋航海が可能な大型巡視船であること
・広い海域を偵察・捜索するためにヘリコプターが運用できること


 以上の能力を満たすのは『PLH型』と呼ばれる巡視船のみで、13隻だけ。もちろん国内でのお仕事もありますので、派遣艦艇をやり繰りするのはちょっと厳しいですね。


◆問題2:洋上給油・補給能力が無い!
 給油や補給のために港に戻れば、その間は民間船舶の護衛に穴があきます。当然ですよね。
 海上保安庁は洋上補給能力がありませんので、補給のたびに港に戻る必要あります。

 一方で2001年より、『テロ対策特別措置法』に基づく米軍(&有志連合軍)給油支援のため補給艦を派遣している海上自衛隊は、この補給艦を利用した洋上給油が可能なので、海保より効率的な船舶護衛が可能です。

 …あ、あと補給を安易に考えている人が多いのですが、「どこでも港に入れば、補給ができる」なんてTVゲームのようにはいきませんよ。
 補給を行うには、まず港側での受け入れ態勢(信頼できる業者の確保など)を整える必要があります。地味ですが、こういった手間のかかる準備も、海保にとって大きな負担になるでしょう。
 


 と、いうわけで――
 はっきり言えば、海上保安庁は“遠く離れた外洋での継続した任務を遂行するようには作られていない”ということですね。
 …なんでこんな当たり前のことを、わざわざ確認しなくちゃいけないんでしょう。

 確かにマラッカ海峡での海賊対処で、海上保安庁は成果をあげました。しかし、比較的日本から近く、普段から交流があり政情の安定した国家内に安全な活動拠点(策源地)を得られたマラッカでの事案とは前提条件が違いすぎると考えるべきでしょう。


■次回は3月3日 金曜日更新予定です
 今回に引き続き、次回も海上保安庁派遣論の問題点について、ご説明いたします。残る一つの理由とは何なのでしょうか? ご期待ください。


★おまけ:巡視船にもメリットはあるんです
 さてさて、海保派遣のデメリットを解説してまいりましたが、実は海保の巡視船が海自の護衛艦より優れている点が一つあるんです。

 それが『武装』です。

 意外ですか? 確かに護衛艦のほうが強力な武装を持っています。でも今回の目的は「海賊から民間船を守る」こと――不審な船の接近を警戒したり、停船を命じて捜索したり――「海賊船撃沈」が目的ではありません。相手を威嚇したり、エンジンを破壊するくらいの“適度な攻撃力”が求められているのです。

 つまり戦闘艦艇と戦うことが目的の護衛艦の武装では、海賊船(漁船程度)相手には強力すぎるんですね。代表的な武装を比べてみましょう。

<護衛艦>
・単装速射砲

 簡単に言うと“大砲”ですね。3インチや5インチ(76mmや127mm)口径のものがあります。これを使うと考えている人が多いのですが…漁船程度なら一撃で沈めてしまいます。使っちゃいけません。


5インチ砲参考写真(US Navy提供)

・20mm機関砲CIWS
 超音速で飛んでくる対艦ミサイルを撃ち落とすための「CIWS=Close In Weapon System(近接防御火器)」です。威力もほどほどなので、今回海賊船相手に使用されると思われます。しかし、CIWSは精密射撃に問題が…。
 CIWSは、ミサイルを“正確に撃ちぬく”のではなく、“弾をばら撒いて当てる(弾幕をはる)”兵器――専門的に言うと「面制圧兵器」なのです(発射速度 毎分4500発! まさに銃弾のカーテンです)。
 エンジンを撃ちぬくつもりが周りまで粉砕…という心配があります。


CIWS参考写真(US Navy提供)

・12.7mm機関銃
 こちらも今回使用されると思われる火器です。射程距離や威力は小型船舶相手にちょうど良いです。
 しかし射手が甲板で暴露状態になるため、小火器による反撃があった場合、負傷する危険があります。海上自衛隊では周囲に土のうを積んで対応するようです。


機関銃参考(US Navy提供)


▼機関銃について訂正▼
 派遣艦艇の公開写真を見ると、機関銃周辺の防御は土のうではなく臨時の装甲板を増設したようです。


<巡視船>
・機関砲

 20~35mm口径の砲塔型機関砲。船内からの操作ですから安全ですし、正確な射撃でエンジンだけ撃ちぬいたりもできます(発射速度 毎分500発前後)。海賊船対処にピッタリです。
 …もともと巡視船は漁船クラスの相手がお仕事ですから、当然の話なのですけどね。

監修:紅羽あうと