今回も前回から引き続き「海上保安庁派遣論」の運用上の問題点についてご説明いたします。

 今回は、なかでも最大の問題点である“通信能力”についてです。

■ソマリア沖は“海軍”ばかり
 現在、ソマリア沖の西側諸国部隊の多くがアメリカ第5艦隊を中心とした第150多国籍任務部隊(CTF150=Combined Task Force 150)の枠組みに加わって活動しています。

第150多国籍任務部隊(CTF150)=イラク・アフガニスタンでの対テロ戦争の一環として中東・インド洋でのテロ関連活動(密輸など海上不法行為)を阻止する役割で組織されました。わが海上自衛隊も補給支援のため、参加しています。

 本来の目的とは違いますが、活動場所や目的が重なるため、ソマリア海賊問題にも副次的に関わっているのです。
 もちろん、参加しているのは全て各国の“海軍”です。


■情報の共有は必須!
 広い海で活動するためには、他の警戒艦艇と“情報の共有”は重要です!

「そっちの海域は安全ですか?」
「いまあっちには○○軍がいるから安心だよ」
「救難信号があったけど誰か対応してる?」
「近くに○○軍がいるから行ってもらおう!」

 リアルタイムで変化する情報を得られなければ、効率的な民間船護衛なんてできません。

 でもこれは「軍」同士の“作戦用周波数”(&データリンク機能)という共通語があってできること。

 「警察」組織である海上保安庁は、この「軍」との交信手段を持っていないのです。
(なお、海自と海保の間には協定があり、交信のための周波数が存在します)


■海上自衛隊は通信能力があります
 海上保安庁を派遣する場合は、この“軍の共通語”の仲間に入れてくれるように交渉するところから始めなければいけませんが、機密の問題もあるので仲間に入れてくれる確証はありません。
(もしくは海保との通信のためだけに新しい周波数を用意してもらうという非現実的な選択肢しか…)

 いっぽうで、海上自衛隊はアメリカ海軍とは、かなり高度な部分まで情報共有がなされています。…あまり大きな声では言えないようなところまで、データリンクできちゃいます!
(専門的知識のある方でしたら、艦橋のアンテナ類を見ればお察しいただけると思います)


 また、伝統的に各国海軍のあいだには「Navy to Navy」という考え方があり、どんな国でも“海軍は海軍どうし”信用を持って接してくれます。
 たとえアメリカ軍が相手でなくても、世界的に“日本海軍”と見なされる海上自衛隊には、もともと各国海軍と協力態勢をとれる土壌があるのです。



■ほかの周波数は無いの?
 海上船舶には世界共通の交信周波数が存在します。それが『国際VHF』です。

 『国際VHF』は船舶の出入港の連絡、救難通信などに使われるほか、軍や海上警察が停船命令を出すときにも使われる、まさに“誰でも発信できて、誰でも受信できる、海の共通語”です。

 しかしながらその交信範囲は狭く、調子のいい日で水平線の先くらいまで。とても広い海域で各国海軍と通信できるものではありません。


■次回は3月13日 金曜日更新です。
 いかがでしょうか?
 たしかに「海賊対処は一義的に海保庁」ではありますが、今回のソマリア沖の事例は「海保庁では対応できない事例」であることがおわかりいただけたと思います。
 まぁ「海保派遣論」の方は、“海保を派遣したい”わけじゃなくて、“海自を出したくない”だけなのはわかりますけどね…。

 さて、最終回間近の次回はソマリア沖の“あまり知られていない実情”について、スルドク分析しちゃおうと思います!