ここまで法律問題と、海上自衛隊派遣の必要性についてお伝えしてきましたが、要点は以下の二点にまとめられると思います。

●海賊対処は「海上警察権」の問題であり、一義的には海上保安庁のお仕事。
●でも、海上保安庁の能力ではソマリア沖派遣は難しいので海上自衛隊が任務にあたる。

 いよいよラスト二回となった今回は、ソマリア沖の各国海軍による取締りの現状についてご説明したいと思います。


■各国が独自に行動中!
 ソマリア沖にあつまる各国海軍。“国連軍”のような統一組織がつくられていると誤解されている方もいるようですが、“司令部”的組織は存在せず、各国はそれぞれの思惑をもって活動しています。

・各国はそれぞれに情報・通信系統を運用している。
・つまり事前に関係各国・海軍らと調整しておかなければ情報を得られないかも…。


 前回のお話にも関わりますが、すでにインド洋での給油支援活動を行っている海上自衛隊は、海上保安庁より調整の手間などが少なくてすむことは確かです。
 また、現地での活動を考えるならアメリカを中心とした情報通信の枠組みに加わることが重要となってくるのですね。


 …それでは、
 各国はどのような目的のもとに活動しているのでしょうか?


■派遣各国は何を考えているのかな?
<アメリカ>
 世界の全ての海洋に海軍部隊を展開するアメリカ海軍。中東・北西インド洋を担当するのが「第5艦隊」です。
 2001年の同時多発テロ事件以降、対テロ戦争の一貫として、テロリストの海上利用(海上テロや密輸)を阻止するため有志連合各国と共同で「海上阻止行動」の合同部隊を設立しています。

第150多国籍任務部隊(CTF150)=前回の説明を参照してください。
第151多国籍任務部隊(CTF151)=今年の1月に設立されました。海賊事案が多発するなか海賊対処を専門に行うため組織されました(CTF150が本来任務の“対テロ活動”に専念できるようにするためです)。


 アメリカ海軍の第一の目的は――
“対テロ戦争の裏庭としての海上治安の確保”です。

 海賊を取り締まることで、戦争の続くイラク・アフガニスタンと、“テロリストの楽園”北東アフリカの輸送・連絡を遮断できると考えているのです。

 また第5艦隊中心の多国籍部隊創設で、ひきつづき同地域のリーダー的存在を維持できるという思惑もあるようです…。


<EU>
 欧州各国はアメリカ中心の多国籍任務部隊に参加するいっぽうで、積極的な活動をおこなっています。

 彼らは、国連の要請に基づく人道支援物資輸送護衛を通して――
“アフリカへのEUの貢献”をアピール。

 国際平和活動への存在感、アフリカへの影響力強化を狙っているとも言われます。


…一方で気になるのが中露の進出です。


<中国・ロシア>
 インド洋・中東はながくアメリカの海洋覇権のもとにありました。
 しかし今回の海賊事案は、彼らが武装した戦闘艦艇をこの地域に送り込む大義名分となったのです。

 彼らの目的はズバリ――
“中東・アフリカへの影響力強化”です。

 自国の存在感をアップ(=米国の存在感ダウン…)させて、資源豊かな同地域との関係を強めたい考えなのです。

 特に近代化著しい中国は、経済援助を通じて資源豊かなアフリカ諸国などとの関係を強化しています。
 また、中国とインド洋の航路上にあたるASEAN諸国にとっては、完全武装の中国艦艇が近海を往来することになり、嫌でも圧力を感じることになるでしょう。

・資源確保にむけたアフリカ外交
・海洋進出の前哨戦としてのASEAN諸国への圧力


 中国にとっては願ったり叶ったりの「海賊対処」なのです!


■調整機関設置に向けた取り組み
 もちろん各国が情報を共有して、有効な海賊対処が行える取り組みも行われています。

 国連安保理決議に基づき、欧米や日本、中国など24カ国と国際海事機関ほか5つの国際機関が参加した「ソマリア沖海賊対策コンタクト・グループ」が開催され、協力態勢づくりのための話し合いがもたれています。
 特に、各国の情報共有とオペレーションの調整を行う「海賊対策地域調整センター」の早急な設置が決定するなど、着実な国際協力も進められているのです!

 また、海上自衛隊では派遣に向けて中国海軍とも海賊情報を共有できるように調整を行っているようです。


■次回:最終回は3月20日金曜日更新です。
 この更新を行っている3月13日、いよいよ「海上警備行動」が発令され、明日にも二隻の護衛艦がソマリア沖に向け出港します。

 最終回となる次回は講座というよりも、わたしから皆さんにお願いをさせていただきたいと思います。
 最後までこのコミックを読んでくださいね。


★おまけ:“日本独自の貢献”って…
 海上自衛隊派遣に反対する方々の掲げる“正論”である「海上保安庁派遣論」についてコミックで問題点を指摘させていただきましたが、もう一つの“正論”である「日本独自の貢献」についてコメントさせていただきます。

 現在、外務省では“海賊行為は、沿岸国の治安維持能力、国境監視能力の欠如”が原因として以下のプロジェクトを進めています。

・100万ドルを拠出。ソマリア暫定連邦政府の入国管理局職員に対してセミナーを実施。
・400万ドルを拠出。ソマリア暫定連邦政府の警察官の訓練を実施。
・対岸国イエメンの海上保安能力向上を目的に、同国沿岸警備隊員の研修を実施。同様に周辺国の保安要員訓練など。


 また日本やアメリカは周辺国への警備船艇の供与を行っています。


 「海上自衛隊派遣」ではなく、上記のような“平和的”手段を通して海賊問題に対応すべきという「日本独自の貢献=援助&人材教育」論を聞くことが多いのですが…

 ハッキリ言います。
 「海上自衛隊派遣」と「援助&人材教育」を同列に扱わないでください。

 「援助&人材教育」は長期的対処法です。
 ゲームではないのです。お金を出したからといって現地に“すぐに使える海上警備部隊”が誕生するわけではありません。まず基幹要員を育成し、彼らtが持ち帰った情報で組織全体の錬度が向上する――時間のかかる作業なのです。

 「海上自衛隊派遣」は短期的対処法です。
 海賊は“今そこにある危機”です。早急な対応が求められる事案として、海上自衛隊が派遣されるのです。

 この二つは平行して進められるべきもので、どちらか一方だけで良いというものではありません。
 「援助&人材教育」の分野では、日本は海上保安庁を中心に東南アジア(マラッカ海峡)海賊対処で周辺国の海上保安組織の育成を行い、10年近い時間を経て着実な成果をあげています。
 ソマリア沖の問題でも同様の成果を期待したいですね。


 …ところで、警備船艇の供与は明らかに「武器禁輸原則」に抵触しているのですが、なんで自衛隊派遣反対派の皆さんはココをつっこまないんですかね?
(※政府は、この供与が例外であるというコメントを出しています)

<参考>
朝雲新聞1月29日特集記事「どう取り組む海賊対策(下)」
外務省HP:アフリカ地域における海賊問題の現状と我が国の取組