■WEBコミック
『ソマリア海賊講座』特別補講
みんなの質問にお答えします!…の巻
■「警察活動の違い」について…
『「行政警察権」と「司法警察権」の違いがイマイチわかりません…』
では両者を目的から比較して見ましょう。
行政警察権(業務):公共の安全(治安の維持)のために行う活動および、そのための権限
司法警察権(業務):犯罪捜査のために行う活動および、そのための権限
行政警察業務は “公共の安全のため”――つまり、犯罪を予防するための活動といえます。お巡りさんのパトロール、職務質問etc..は、まさに犯罪を未然に防ぐためのお仕事といえますよね。
一方で司法警察業務は、ずばり犯罪捜査です。犯罪者を取り締まるために強制力が必要なわけなのです。
■「問題1:武器を使用できない」について…
『「警告射撃」などはできるのでは?』
ご指摘の通りです。あらためて「武器の使用」について解説いたしますと…
警告射撃・威嚇射撃=今までの法律でも可能です。停船指示に従わない不審船舶の周辺、もしくは上空など“相手に当たらない”範囲で、射撃を行います。
船体射撃=今までの法律ではできませんでした。警告・威嚇射撃の次のステップとして、停船指示に従わない不審船舶のエンジン部や操舵などに損害を与える行為です。
危害射撃=今までの法律ではできませんでした。船体射撃の次のステップとして、なおも海賊行為を行う不審船舶乗員に“危害”を加える――つまり直接、撃つ行為です。
【まとめ】
旧来の問題点を再整理すると――
「警告・威嚇射撃は可能。しかし、相手がひるまず海賊行為を続けた場合には“正当防衛・緊急避難”以外での射撃が不可能だった」
――ということです。
>>法律解釈変わりました!
海賊を取締るための新法案『海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法案』に向けて、海上警備行動中の海上自衛隊でも「船体・危害射撃」ができるとの判断がありました。
■「問題2:外国の船を助けられない」について…
『海賊は「旗国主義」の例外である。たとえ外国の船が襲われていても取締ることができるのでは?』
『海上保安庁は、行政警察権によって海賊船を拿捕できるとみなされるのでは?』
ちょっと難しいので、ご指摘内容の説明から…
旗国主義=船舶の中は船籍を置く国の法律が適用され、その国に裁判権がある。
(例:日本籍船の中はその船が地球の裏側にいても日本の法律が適用されます)
船籍を置く船の国旗を掲げる義務があるため「旗国主義」と言います。「船の中はその国の領土の延長」という思想が背景にあり、「属地主義」の一種です。
一方で「海賊船」は、この例外として全ての国が取締ることができます。
国際海洋法条約第105条
いずれの国も、海賊船舶を拿捕し、当該船舶内の人を逮捕し、財産を押収することができる。拿捕を行った国の裁判所は、科すべき刑罰を決定することができる
(要点部分のみ抜粋)
“いずれの国も”ということで、「旗国主義」の例外であることが国際的に認められています。
ただ、もちろん誰でも取締りOKというわけではありません。
国際海洋法条約第107条
拿捕は、
・『軍艦、軍用航空機』
・『その他政府の公務に使用されている船舶又は航空機でそのための権限を与えられているもの』
によってのみ行うことができる
(要点部分のみ抜粋。改行は編集)
日本であれば軍艦・軍用航空機=自衛隊艦船・航空機が可能となります。
また、海上保安庁は『その他政府の公務に使用されている船舶又は航空機でそのための権限を与えられているもの』の地位にあると解釈されています。
以上のことから、たしかに国際的共通認識としては『海賊は旗国主義の例外として、襲われているのが日本船でも外国船でも助けられる』となります。
ただし…
(1)この国際法を日本でも有効にするための国内法=“海賊を取締る法律(処罰する法律)”が無く、国内法的には国際法に定められた取締り行動をとる根拠が無い。
※仕方ないので既存の「刑法」の殺人・強盗など罪で海賊を取締ることに…。
(2)でも、刑法が適用できる範囲(法の保護がおよぶ範囲)には限界がある。
※保護がおよぶ範囲は以下のように定められています。
属地主義(旗国主義)にもとづく日本籍船(刑法第2条)
属人主義にもとづく日本国民(刑法第3条の2)
(3)つまり適用範囲外の外国船への海賊行為に介入する法的根拠が自衛隊・海保庁には存在しない!
というのが「外国の船を助けられない」というコミック第2回解説の要旨でした
では、『行政警察権で拿捕できる』という指摘はどういうことでしょう?
まず海上保安庁のお仕事を、海上保安庁法第2条から読み取って見ましょう。
海上保安庁法第2条
海上保安庁は、法令の海上における励行、海難救助、海洋汚染等の防止、海上における犯罪の予防及び鎖圧、海上における犯人の捜査及び逮捕、海上における船舶交通に関する規制、水路、航路標識に関する事務その他海上の安全の確保に関する事務並びにこれらに附帯する事項に関する事務を行うことにより、海上の安全及び治安の確保を図ることを任務とする。
ものすごく簡単に言うと「海保庁は、海上における安全確保・治安維持がお仕事です」ということです。
冒頭の「行政警察権&司法警察権」の解説を思い出してみましょう。「行政警察権」は「公共の安全」のために活動する権限とありましたよね。
つまり、海上保安庁は「海上において行政警察権を行使できる権限を持っている」と解釈できます。
つまり――
<前提>
(a)日本には“海賊を取締る法律(処罰する法律)”が無いので、日本の法の適用範囲外である外国船の事件を“捜査・処罰することができない”=司法警察権を行使できない。
(b)ただし、海上保安庁第2条にあるとおり行政警察権を行使できる。
(c)「臨検」「拿捕」は行政警察業務。
<結論>
海上保安庁は外国船が襲われていても行政警察活動として海賊船を「臨検」し「拿捕」することができる。
(処罰はできないので、周辺国の海上警察など権限を有する組織に引き渡すことが必要)
――ということです!
…でも、これは海上保安庁の法解釈の一つ。
法解釈に関しては、現場サイドや法学者、官庁ごとに違う場合があり、この解釈に批判的な見解もあります。
例えば海上警備行動によって、海上保安庁法の適用を受ける海上自衛隊は以下のように考えています。
<前提>
(b)海上保安庁法第2条が外国船舶への行政警察権行使を認めているとは解釈できない。
(a)「臨検」「拿捕」は強制力があり司法警察業務。
<結論>
海上自衛隊は外国船が襲われてても手のうちようが無い。
海保庁とは全然違う考え方ですよね。
【まとめ】
「海上保安庁は外国船を助けることができる(という考え方もある)」
「海上自衛隊は助けられないと考えている」
このあたりの考え方の違いは、海賊取締りが警察活動であり、海上警察である海上保安庁のほうが法律的に適していることをあらわしていると言えるかもしれませんね。
>>新法で外国船も保護可能!
海賊を取締るための新法案『海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法案』では、海賊行為の定義を国内法で再確認し“犯罪”であると定めました。つまり襲われている船が日本籍でも外国籍でも、“犯罪者”たる海賊に対処できる法的根拠ができるのです!
これで外国船舶を助けることができますね!
<4月3日追加>
■各国海軍と海保の通信について
『海保でも米海軍などと通信できるのでは?』
この問題についてもご指摘がありましたが、コミックおよび解説の内容以上のことは説明することができません。
なぜかといいますと…
“通信”や“データリンク”に関しては高度に政治的な問題でもあり、「通信にどのような方式が使われているか」、「どういう連携がおこなわれているか」ということを明らかにすることはできないのです。
述べられることは――
・海上保安庁は米海軍ほか各国海軍と作戦レベルでの交信は不可能。
・海上自衛隊は米海軍ほか各国海軍と作戦レベルでの交信可能だし、ちゃんとデータリンクもしている。
ということの繰り返しとなってしまいます。
ご理解下さい。
なお“各国海軍”と言っても、アメリカとの同盟関係に無いロシア・中国・インドその他の諸国に関してはこの限りではありません。
(中国とは情報共有の協定が結ばれているようですね)
『インマルサットならば各国海軍・商船とも搭載しており会話が可能では?』
インマルサット(INMARSAT)とは衛星を利用した全世界規模での通信網(通信事業)です。音声だけでなくFAXなどのデータ送信も可能であり、広い海洋を往来する海運業界にとって必須の通信手段となっています。
さて、こちらのインマルサット、確かに米海軍も船に乗せていて理論上は交信できます。しかし運用上、限られた台数のインマルサットにはそれぞれの使用割り当てがあり、軍用無線で交信できない海保のために使用してくれるかは不透明です。
そもそも民間のインマルサット通信網では当然ながら交信できることも限られてきますし、各国との共同態勢を考えるならインマルサットは今回の任務には不適と考えるべきでしょうね。
…あと、通話料高いんですよね~。
補講は以上です!
今回は読者の皆さんから多くの反響をいただきました
それだけ皆さんが自衛隊の活動に関心を寄せてくださっているということですよね!
私としてもとてもやりがいのある連載でした。
海賊新法の成立も近いようですが、まだまだ自衛隊の海外活動については論議が不十分なことが多いと思います
もっともっと論議して、よりよい日本による――自衛隊による国際貢献のかたちが見つけられたらいいな…って、私は思います
これからも応援よろしくおねがいします!
軍事・法律監修:紅羽あうと
みんなの質問にお答えします!…の巻
■「警察活動の違い」について…
『「行政警察権」と「司法警察権」の違いがイマイチわかりません…』
では両者を目的から比較して見ましょう。
行政警察権(業務):公共の安全(治安の維持)のために行う活動および、そのための権限
司法警察権(業務):犯罪捜査のために行う活動および、そのための権限
行政警察業務は “公共の安全のため”――つまり、犯罪を予防するための活動といえます。お巡りさんのパトロール、職務質問etc..は、まさに犯罪を未然に防ぐためのお仕事といえますよね。
一方で司法警察業務は、ずばり犯罪捜査です。犯罪者を取り締まるために強制力が必要なわけなのです。
■「問題1:武器を使用できない」について…
『「警告射撃」などはできるのでは?』
ご指摘の通りです。あらためて「武器の使用」について解説いたしますと…
警告射撃・威嚇射撃=今までの法律でも可能です。停船指示に従わない不審船舶の周辺、もしくは上空など“相手に当たらない”範囲で、射撃を行います。
船体射撃=今までの法律ではできませんでした。警告・威嚇射撃の次のステップとして、停船指示に従わない不審船舶のエンジン部や操舵などに損害を与える行為です。
危害射撃=今までの法律ではできませんでした。船体射撃の次のステップとして、なおも海賊行為を行う不審船舶乗員に“危害”を加える――つまり直接、撃つ行為です。
【まとめ】
旧来の問題点を再整理すると――
「警告・威嚇射撃は可能。しかし、相手がひるまず海賊行為を続けた場合には“正当防衛・緊急避難”以外での射撃が不可能だった」
――ということです。
>>法律解釈変わりました!
海賊を取締るための新法案『海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法案』に向けて、海上警備行動中の海上自衛隊でも「船体・危害射撃」ができるとの判断がありました。
■「問題2:外国の船を助けられない」について…
『海賊は「旗国主義」の例外である。たとえ外国の船が襲われていても取締ることができるのでは?』
『海上保安庁は、行政警察権によって海賊船を拿捕できるとみなされるのでは?』
ちょっと難しいので、ご指摘内容の説明から…
旗国主義=船舶の中は船籍を置く国の法律が適用され、その国に裁判権がある。
(例:日本籍船の中はその船が地球の裏側にいても日本の法律が適用されます)
船籍を置く船の国旗を掲げる義務があるため「旗国主義」と言います。「船の中はその国の領土の延長」という思想が背景にあり、「属地主義」の一種です。
一方で「海賊船」は、この例外として全ての国が取締ることができます。
国際海洋法条約第105条
いずれの国も、海賊船舶を拿捕し、当該船舶内の人を逮捕し、財産を押収することができる。拿捕を行った国の裁判所は、科すべき刑罰を決定することができる
(要点部分のみ抜粋)
“いずれの国も”ということで、「旗国主義」の例外であることが国際的に認められています。
ただ、もちろん誰でも取締りOKというわけではありません。
国際海洋法条約第107条
拿捕は、
・『軍艦、軍用航空機』
・『その他政府の公務に使用されている船舶又は航空機でそのための権限を与えられているもの』
によってのみ行うことができる
(要点部分のみ抜粋。改行は編集)
日本であれば軍艦・軍用航空機=自衛隊艦船・航空機が可能となります。
また、海上保安庁は『その他政府の公務に使用されている船舶又は航空機でそのための権限を与えられているもの』の地位にあると解釈されています。
以上のことから、たしかに国際的共通認識としては『海賊は旗国主義の例外として、襲われているのが日本船でも外国船でも助けられる』となります。
ただし…
(1)この国際法を日本でも有効にするための国内法=“海賊を取締る法律(処罰する法律)”が無く、国内法的には国際法に定められた取締り行動をとる根拠が無い。
※仕方ないので既存の「刑法」の殺人・強盗など罪で海賊を取締ることに…。
(2)でも、刑法が適用できる範囲(法の保護がおよぶ範囲)には限界がある。
※保護がおよぶ範囲は以下のように定められています。
属地主義(旗国主義)にもとづく日本籍船(刑法第2条)
属人主義にもとづく日本国民(刑法第3条の2)
(3)つまり適用範囲外の外国船への海賊行為に介入する法的根拠が自衛隊・海保庁には存在しない!
というのが「外国の船を助けられない」というコミック第2回解説の要旨でした
では、『行政警察権で拿捕できる』という指摘はどういうことでしょう?
まず海上保安庁のお仕事を、海上保安庁法第2条から読み取って見ましょう。
海上保安庁法第2条
海上保安庁は、法令の海上における励行、海難救助、海洋汚染等の防止、海上における犯罪の予防及び鎖圧、海上における犯人の捜査及び逮捕、海上における船舶交通に関する規制、水路、航路標識に関する事務その他海上の安全の確保に関する事務並びにこれらに附帯する事項に関する事務を行うことにより、海上の安全及び治安の確保を図ることを任務とする。
ものすごく簡単に言うと「海保庁は、海上における安全確保・治安維持がお仕事です」ということです。
冒頭の「行政警察権&司法警察権」の解説を思い出してみましょう。「行政警察権」は「公共の安全」のために活動する権限とありましたよね。
つまり、海上保安庁は「海上において行政警察権を行使できる権限を持っている」と解釈できます。
つまり――
<前提>
(a)日本には“海賊を取締る法律(処罰する法律)”が無いので、日本の法の適用範囲外である外国船の事件を“捜査・処罰することができない”=司法警察権を行使できない。
(b)ただし、海上保安庁第2条にあるとおり行政警察権を行使できる。
(c)「臨検」「拿捕」は行政警察業務。
<結論>
海上保安庁は外国船が襲われていても行政警察活動として海賊船を「臨検」し「拿捕」することができる。
(処罰はできないので、周辺国の海上警察など権限を有する組織に引き渡すことが必要)
――ということです!
…でも、これは海上保安庁の法解釈の一つ。
法解釈に関しては、現場サイドや法学者、官庁ごとに違う場合があり、この解釈に批判的な見解もあります。
例えば海上警備行動によって、海上保安庁法の適用を受ける海上自衛隊は以下のように考えています。
<前提>
(b)海上保安庁法第2条が外国船舶への行政警察権行使を認めているとは解釈できない。
(a)「臨検」「拿捕」は強制力があり司法警察業務。
<結論>
海上自衛隊は外国船が襲われてても手のうちようが無い。
海保庁とは全然違う考え方ですよね。
【まとめ】
「海上保安庁は外国船を助けることができる(という考え方もある)」
「海上自衛隊は助けられないと考えている」
このあたりの考え方の違いは、海賊取締りが警察活動であり、海上警察である海上保安庁のほうが法律的に適していることをあらわしていると言えるかもしれませんね。
>>新法で外国船も保護可能!
海賊を取締るための新法案『海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法案』では、海賊行為の定義を国内法で再確認し“犯罪”であると定めました。つまり襲われている船が日本籍でも外国籍でも、“犯罪者”たる海賊に対処できる法的根拠ができるのです!
これで外国船舶を助けることができますね!
<4月3日追加>
■各国海軍と海保の通信について
『海保でも米海軍などと通信できるのでは?』
この問題についてもご指摘がありましたが、コミックおよび解説の内容以上のことは説明することができません。
なぜかといいますと…
“通信”や“データリンク”に関しては高度に政治的な問題でもあり、「通信にどのような方式が使われているか」、「どういう連携がおこなわれているか」ということを明らかにすることはできないのです。
述べられることは――
・海上保安庁は米海軍ほか各国海軍と作戦レベルでの交信は不可能。
・海上自衛隊は米海軍ほか各国海軍と作戦レベルでの交信可能だし、ちゃんとデータリンクもしている。
ということの繰り返しとなってしまいます。
ご理解下さい。
なお“各国海軍”と言っても、アメリカとの同盟関係に無いロシア・中国・インドその他の諸国に関してはこの限りではありません。
(中国とは情報共有の協定が結ばれているようですね)
『インマルサットならば各国海軍・商船とも搭載しており会話が可能では?』
インマルサット(INMARSAT)とは衛星を利用した全世界規模での通信網(通信事業)です。音声だけでなくFAXなどのデータ送信も可能であり、広い海洋を往来する海運業界にとって必須の通信手段となっています。
さて、こちらのインマルサット、確かに米海軍も船に乗せていて理論上は交信できます。しかし運用上、限られた台数のインマルサットにはそれぞれの使用割り当てがあり、軍用無線で交信できない海保のために使用してくれるかは不透明です。
そもそも民間のインマルサット通信網では当然ながら交信できることも限られてきますし、各国との共同態勢を考えるならインマルサットは今回の任務には不適と考えるべきでしょうね。
…あと、通話料高いんですよね~。
補講は以上です!今回は読者の皆さんから多くの反響をいただきました
それだけ皆さんが自衛隊の活動に関心を寄せてくださっているということですよね!
私としてもとてもやりがいのある連載でした。
海賊新法の成立も近いようですが、まだまだ自衛隊の海外活動については論議が不十分なことが多いと思います
もっともっと論議して、よりよい日本による――自衛隊による国際貢献のかたちが見つけられたらいいな…って、私は思います
これからも応援よろしくおねがいします!
軍事・法律監修:紅羽あうと

